歯科医院は「コンビニよりも数が多い」と言われるほどに増えています。そして、競合が多い中で、多くの歯科医院が他の歯科との差別化に苦心しています。しかし、やみくもに差別化をしようとするのでは、効果は薄いです。そこで本記事では、歯科医院の差別化に必要な分析や、求められている差別化ポイントについて紹介します。
差別化戦略とは
差別化戦略とは、他の歯科医院にはない独自の強みを活かして、競争優位性を確立するための戦略のことです。これは、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授によって提唱された考え方です。
歯科医院においては、治療技術、口腔ケア製品、患者サービス、ブランドイメージなど、他の医院が簡単には真似できない要素を選んで強化していくことがカギとなります。独自性のある取り組みを行うことで、価格競争に巻き込まれることなく、安定した患者獲得が可能となるでしょう。
差別化戦略の成功例として、モスバーガーの取り組みが挙げられます。モスバーガーは、競合であるマクドナルドとの差別化を図るために、いくつかの工夫を行いました。たとえば、メニューの種類を多くして選択肢を増やし、価格を安易に下げるのではなく、明確に顧客層を選定しました。
また、店舗内装には観葉植物や木材を取り入れることで、落ち着いた居心地の良い空間づくりに努めています。こうした取り組みにより、モスバーガーは独自のブランドイメージを確立し、他社との差別化に成功したのです。
同様に歯科医院の経営においても、地域や業界内の他医院といかに違いを打ち出していくかが重要です。技術力に優れた治療、心地よい接遇、リラックスできる空間設計などを通じて自院の価値を明確に打ち出し、患者に選ばれる歯科医院となることが求められます。
歯科医院の差別化に必要な分析
歯科医院が競争優位を確立するためには、差別化戦略だけでなく、的確な調査と分析が不可欠です。マーケティング分野で用いられる代表的な分析手法には「SWOT分析」「バリューチェーン分析」「PEST分析」があります。
これらを活用することで、自院の現状や外部環境を把握し、戦略立案の精度を高めることができます。
SWOT分析
まず、SWOT分析は、内部環境と外部環境の両面から医院の状況を分析する基本的な手法です。内部要因としては「強み（Strength）」と「弱み（Weakness）」、外部要因としては「機会（Opportunity）」と「脅威（Threat）」を明確にします。
例えば「豊富なインプラント症例数」は強みとして活かせる一方「小児向け治療ノウハウの不足」は弱みとなり得ます。また「近隣で大型マンションの建設が進んでいる」といった地域の変化は新たな機会をもたらし「少子高齢化による人口減少」は脅威として対策が求められます。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、医院のサービス提供の流れの中で、どの部分に価値が生まれているかを可視化するための手法です。たとえば、患者対応、予約管理、治療、アフターケアなど直接的に価値を生むプロセスと、間接的に支える設備、人材管理、技術力といった要素に分けて分析します。
どこに強みがあるのか、あるいは改善の余地があるのかを把握し、重点的に投資することで医院全体の価値向上が図れます。
PEST分析
最後に、PEST分析は、歯科医院の外部環境を「政治（Politics）」「経済（Economy）」「社会（Society）」「技術（Technology）」の4つの視点から分析するマクロ的な手法です。
例えば「診療報酬体系の改定」「歯科市場の成長性」「新型コロナウイルスへの対応状況」「海外での新技術開発」などを調査することで、歯科業界全体の流れや将来性を見極めることができます。
この分析により、自院が進むべき方向や強化すべき分野を俯瞰的に捉えることが可能になります。
歯科医院の差別化のポイント
歯科医院が差別化を図るためには、様々な観点から戦略的な取り組みが必要です。
施設のリニューアル
まず、施設のリニューアルは外観や看板、内装に焦点を当て、医院のブランドイメージを強化する方法です。外観はコンセプトや患者層に合わせた色彩やデザインで整え、夜間診療を意識した照明も効果的です。
看板は視認性とブランドカラーを重視し、地域住民への認知向上を図ります。内装では、プライバシーに配慮した空間づくりや広々とした雰囲気の演出が、患者の満足度を高める要素となります。
診療体制の見直し
次に、診療体制の見直しでは、ターゲット層に応じた診療時間や科目の調整が求められます。例えば、ビジネスマンには夜間診療、高齢者には在宅診療、商業施設との連携によるパンフレット配布などが挙げられます。
マネジメントの見直し
また、マネジメントの見直しも重要です。限られた人員で質の高いサービスを提供するためには、スタッフの目標管理や評価制度の整備、意思決定の共有、定期的なミーティングによる意識統一が求められます。
とくに歯科衛生士などの人材確保が困難な状況では、職場環境の改善と効率的な組織運営が差別化の要となります。
広報戦略
さらに、ホームページやSNSの活用による広報戦略も欠かせません。ホームページでは医院の理念や診療内容をわかりやすく発信し、写真やキャッチコピーで安心感を演出しましょう。
また、Xで情報を手軽に届けたり、Instagramで視覚的にアピールしたりすることで、患者との双方向コミュニケーションが可能になります。
医療機器の導入・入れ替え
最後に、医療機器の導入・入れ替えは、最新機器による高度な治療の提供や、清潔感の維持を目的として行います。とくにCAD/CAM、レーザー、CTなどの導入は、他院との差別化に大きく寄与します。
まとめ
競合が激しい歯科業界において、患者に選ばれるためには他院との差別化が不可欠です。本記事では、SWOT分析やバリューチェーン分析、PEST分析などのマーケティング手法を活用した現状把握の重要性から、実際に差別化を図るための具体的な戦略までを網羅的に解説しました。施設のリニューアルや診療体制・マネジメントの見直し、広報戦略、医療機器の導入といった多角的な取り組みによって、自院の強みを際立たせることが可能になります。安易な価格競争に巻き込まれず、持続的な成長を目指すためにも、戦略的な差別化を実現しましょう。
