歯科医院を開業するには、資金の準備から医療機器の選定、行政への届出まで多くのステップが必要です。一般的に5,000万円以上の初期費用がかかるといわれており、事前の計画が欠かせません。この記事では、開業に必要な資金や設備、手続きについて分かりやすく解説します。ぜひ参考にしてください。
開業に必要な資金
歯科医院の開業には、初期費用と運転資金の両方を準備する必要があります。初期費用は医療機器や内装工事などに使われ、運転資金は開業後の経営が安定するまでの費用として確保しておきます。
初期費用の内訳
初期費用としてもっとも大きな割合を占めるのが医療機器です。ユニット(診療台)やレントゲン装置、滅菌器などの大型機器だけで1,500万円から2,000万円程度かかります。ユニットは1台あたり200万円から300万円程度で、一般的な歯科医院では3台から4台を設置するため、この部分だけでも大きな費用となります。
内装工事費も重要な項目で、テナントの場合は1,000万円から1,500万円ほどが目安です。歯科医院は床上げ工事が必要となるため、他の業種よりも工事費が高くなる傾向があります。賃貸契約にかかる費用として、敷金や保証金、仲介手数料なども準備が必要で、立地によっては数百万円かかる場合もあります。
運転資金の確保
開業してすぐに患者が集まるケースは少なく、経営が安定するまでには時間がかかります。保険診療の場合、診療報酬の入金までに約2か月かかるため、その間の人件費や家賃、材料費などを運転資金として用意しておかなければなりません。一般的には6か月分の運転資金を確保しておくと安心です。スタッフの給与は毎月発生するため、患者が少ない時期でも支払いが滞らないよう、余裕をもった資金計画が求められます。
資金の調達方法
開業資金の全額を自己資金で用意する必要はありません。一般的には自己資金として1,000万円程度を準備し、残りは銀行からの融資を受けるケースが多くなっています。金融機関から融資を受ける際には、事業計画書の作成が必要です。医療機器についてはリースを活用することで初期費用を抑えられます。自治体によっては創業支援融資や補助金制度もあるため、開業予定地の自治体に相談してみるとよいでしょう。
必要な医療機器と設備
診療を始めるためには、さまざまな医療機器や設備を揃える必要があります。開業当初から全てを揃えるのではなく、必要なものから優先的に導入していく計画が大切です。
診療室の主要設備
診療室でもっとも重要なのがユニットです。患者が座る診療台で、治療に必要な機能が集約されています。小児用やメンテナンス用など種類があるため、想定する患者層に合わせて選びます。レントゲン装置も必須の設備で、パノラマレントゲンやデジタルレントゲンなどがあります。バキュームやコンプレッサーは診療室全体で使用する設備で、容量の大きいものは100万円以上かかる場合もあります。滅菌器や超音波洗浄機は衛生管理に欠かせない設備です。治療に使用する器具を清潔に保つため、開業時から必ず準備しておく必要があります。
レセコンと管理機器
レセコン(レセプトコンピュータ)は、診療報酬の請求に使用するシステムです。電子カルテ機能が付いたものもあり、患者情報の管理や予約システムとの連携も可能になります。予約システムを導入すると、患者がウェブから予約できるようになり、スタッフの業務負担も軽減されます。受付カウンターには、会計用のパソコンやプリンター、診察券を管理する設備なども必要です。
備品と消耗品
診療に使用する小型の器具類も多数必要です。ミラーやピンセット、スケーラーなどの基本セットは、ディーラーから一式購入するのが一般的となっています。消毒用エタノールや局所麻酔薬、ガーゼや綿花などの消耗品も開業前に揃えておきます。待合室には椅子やテーブル、雑誌を置く棚なども用意します。トイレには消耗品として紙コップやペーパータオル、洗口用のコップなどが必要です。掃除用具や洗剤類も忘れずに準備しておきましょう。
開業までの手続き
歯科医院を開業するには、保健所や厚生局、税務署などへの届出が必要です。提出期限が決まっているものもあるため、計画的に準備を進めることが大切になります。
保健所への届出
開業後10日以内に、管轄の保健所へ診療所開設届を提出する必要があります。この届出には歯科医師免許証のコピーや建物の平面図などの書類が必要です。提出前には保健所に事前相談しておくことをおすすめします。施設の構造や設備が基準を満たしているか確認してもらえるため、開業後に不備が見つかるリスクを減らせます。
レントゲン装置を設置する場合は、エックス線装置設置届も開業後10日以内に提出が求められます。開設届を提出した後、保健所の職員が実際に医院を訪れて実地検査を行います。
保険医療機関の指定
保険診療を行うためには、厚生局で保険医療機関の指定を受ける必要があります。保険医療機関指定申請書を提出してから指定を受けるまでに約1か月かかるため、開業予定日から逆算して申請しなければなりません。この申請の受付には毎月締め切り日があり、締め切りに間に合わないと保険診療の開始が翌月以降になってしまいます。保険医としての登録も必要で、こちらも厚生局に申請します。指定を受けるまでの期間は自費診療のみとなるため、資金計画にも影響が出ます。
税務署への届出
個人で開業する場合、税務署に個人事業の開業届出書を提出します。提出期限は開業から1か月以内です。青色申告を希望する場合は、所得税の青色申告承認申請書も提出が必要で、こちらは開業から2か月以内が期限となります。スタッフを雇用する場合は、給与支払事務所の開設届出書も開業から1か月以内に提出します。源泉所得税の納期の特例に関する申請書を提出すると、源泉所得税の納付を年2回にまとめられるため、事務負担を軽減できます。
まとめ
歯科医院の開業には5,000万円以上の資金が必要で、医療機器や内装工事、運転資金として準備します。診療に必要な設備はユニットやレントゲン装置などの大型機器から、消耗品まで幅広く揃える必要があります。開業後は保健所への診療所開設届や厚生局への保険医療機関指定申請など、期限が決まった手続きが多数あるため、計画的に進めることが大切です。事前の準備をしっかり行い、スムーズな開業を目指しましょう。